ホルストの組曲『惑星』と占星術(2) 

ホルストが着想を得た、惑星の占星術的意義とはどんなものなのか、 組曲『惑星』を構成する各曲とともにご紹介します。

第4曲 木星 よろこびをもたらす者

実際の惑星の木星は太陽系の中でずば抜けて大きいのです。その雄大な感じが曲に表れていて明るく壮大に始まります。

中世の大祝祭を思わせるような民謡風の情感を漂わせる各主題。ホルンがめちゃめちゃかっこいい第1主題。お祭りの準備をしているようなワクワク感のある第2主題。皆で踊るような舞曲風第3主題ではタンバリンがいい味出してます。

それに続く中間部の第4主題(『ジュピター』でも有名になった部分です)は寛容と寛大をイメージさせる旋律で、そこだけ切り取られて広く愛されるのも納得がいきます。終盤には第4主題が豪華になって戻ってきて圧倒的なフィナーレに。

占星術的には、木星は発展と拡大の星善の意識、寛大も象徴する「幸運の星」とされています。ローマ神話の主神、一番えらい神様ユピテル(ジュピター)の名で呼ばれています

精神性の拡大や個人を超えた拡がりも意味します。木星がもたらすよろこびは、個人レベルの欲望を満たして得られる快楽ではありません。もっと社会的で精神的な拡がりをもったよろこびなんですね。

第5曲 土星 老いをもたらす者

暗く陰鬱に、忍び寄る老いと死の不安を感じさせる始まり方。全体がゆっくりと静かに、それでもドラマチックに心の動きが表され、終盤は平和に落ち着いていく諦めのような受け入れのような境地に達して静かに終わります。

土星は、老成、責任、凝固、制限、束縛などを象徴します。時代とともに価値観や物事の意味付けは変わりますが、ライフスタイルの変化によって、年を重ねることに関しては特に、現代では昔とはだいぶ意味合いが変わっているかもしれません。

ホルストがもし今の時代に「土星」を作曲したら、少し色合いの異なった曲が作られたかもしれません。

「水星」が短く速く軽やかな曲であること自体が水星らしいように、「土星」が全曲の中では一番長く、ゆっくり進行すること自体がとても土星らしいと言えます。

第6曲 天王星 魔術師

デュカスの『魔法使いの弟子』に少し似ていて、いかにも魔術師っぽいサウンドかもしれません。でも、ここで描かれているのは小さな魔法ではなく、もっと大きなことのように思えます。

天王星が発見されたのは1781年。土星までの惑星に比べれば、ごく最近の発見です。

天王星の発見前までは、太陽系の一番外側は土星で、土星が制限や老成を象徴していました。ところが天王星が発見されたことで、制限を超えて世界が拡がっていくわけです。

天王星が象徴するのは変革、覚醒、独立、独創。それまでの常識や価値観、ローカルなものを超えていくことを意味します

常識や予想を超えて社会に驚きと変化をもたらす。それがこの魔術師の使う魔術のようです。

第7曲 海王星 神秘主義者

フルートとバスフルートが不思議な和音で奏でる二重奏に始まり、女声合唱だけになって無限のかなたに消えるように終わる最後まで、この上なく美しく繊細で神秘的な曲です。

天王星よりもさらに後の1846年に発見された海王星も、天王星と同じく古典占星術では使われません。

現代占星術では、海王星は夢、理想、無意識、神秘感覚などを象徴するとされています。目に見えないもの、形のないものを扱う天体です。ローマ神話の海神ネプトゥヌス(ネプチューン)の名がつけられています。

冥王星は?

組曲『惑星』に冥王星が入っていないのは、作曲された当時、冥王星がまだ発見されていなかったからです。

1930年の発見以降惑星として扱われていた冥王星は、2006年に国際天文学連合という機関によって「惑星ではなく準惑星」とされたので、結局、現在では惑星ではありません。でも現代占星術では、大きな力を持つと考えられ、大きな意味を持ち続けています。

冥王星が象徴するのは死と再生、破壊、根源的変化、徹底などです。

宇宙とわたし

10代で初めてこの曲を聞いた時は、「これから人が宇宙を目指すようになるんだな」という現実世界の宇宙旅行のイメージで捉えていました。

それから随分時が経った今、ホルストの着想の源となった占星術的理解でこの曲を聞くと、まったく違って聞こえて、ものすごくよく分かる気がするのです。

これは精神世界の深遠で壮大な天体の物語。そしてそれは遠くて手が届かないものではなく、自分の中にあるもの。わたしの心の中の宇宙の旅。わたしは宇宙の一部なんだという、とても安らかで穏やかな感覚を与えてくれる気がします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!